剱岳(つるぎだけ)は、富山県の上市町と立山町の境界に位置し、剱・立山連峰と呼ばれているように、北アルプス北部の立山三山や大日岳と同じ山域にある、標高2,999mの山です。
北アルプスの中でも屈指の峻峰(しゅんぽう)で、その威風堂々とした山容にはファンが多い、日本百名山の一つです。今回は、剱岳を登る人々が多く利用する、別山尾根ルートをご紹介します。初心者が気を付けるポイント、装備、アクセス、トイレなどの情報をお伝えします。
剱岳ってどんな山?
今では多くの登山者が訪れますが、昔は未踏の地とされていた剱岳。陸軍参謀本部陸地測量部(現在の国土地理院)の柴崎芳太郎らが 1907年(明治40)に三角測量点を置くために剱岳に挑んだことが、記録に残る初登頂とされています。
しかし柴崎芳太郎らは、頂上で平安時代のものとみられる錫杖、槍身や焚き火の跡を発見。古くから山岳信仰の修験者が剱岳に登頂していたことがわかりました。
剱岳を舞台に測量に携わる人々の情熱と尊厳を描いた作家 新田次郎の「劍岳 点の記」という著書もあり、映画化にもなっています。
剱岳は、日本国内で「一般登山者が登る山のうちでは危険度の最も高い山」ともいわれており、一般登山道として最上級クラスの難易度。
一般登山ルートとして整備されている、別山尾根ルートと早月尾根ルートの2つがありますが、剱岳を目指す多くの登山者が利用するのが、別山尾根ルートです。室堂ターミナルから出発するので、アクセスが最もいいとされています。
他にも、難易度の高いバリエーションルートがあり、登山初心者からベテランまで、それぞれのレベルで楽しめるところも、剱岳の魅力です。
剱岳登山のおすすめの時期は?
剱岳の登山にオススメの時期は7月中旬~9月下旬ごろです。岩と雪の殿堂といわれるだけあって、冬の剱岳は積雪が多くベテランの登山者には人気があります。
しかし、ただでさえ険しく足場の確保に注意が必要な山ですので、初心者にはオススメできません。
夏でも残雪が残っていることもあり、雪渓を渡ったりすることもあります。夏場はハイシーズンなので登山者も多く、山小屋の予約がとれにくくなりますので、早めの登山計画が必要です。
剱岳の登山時の装備や持ち物は?
一般的な登山スタイルに加え、岩場を登ったり鎖場を渡ったりと、動きが多い登山となるため、岩綾歩きに適したアイテムをオススメします。
たとえば、靴はソールが固めで疲れにくいもの、通気性のよい化繊やウールの長袖シャツ、パンツは足の上げ下げがしやすい収縮性のあるもの、手袋は岩をつかみやすい、指ぬきの革グローブなどです。
また、早朝4時や5時など、まだ日が昇らない時刻にスタートするため、ヘッドランプも欠かせません。落石もあるのでヘルメットの装着は必須です。ヘルメットは、剣沢小屋、剣山荘での貸し出しもありますので、事前のチェックを!
アタック当日は、なるべく持ち物の軽量化が必要です。前泊をして山小屋かテントで大きな荷物はデポし、アタックザックに必要最低限のものを入れて登ります。
剱岳の登山にかかる時間・難易度と注意点
剱岳登山のコースタイムは?
剱岳登山のコースタイムですが、前泊(剣沢でテント泊または、剣山荘・劔沢小屋で小屋泊)をすれば、登り4時間、下り4時間、往復およそ8時間。下山後、そのまま室堂まで歩く場合は、プラス5時間ぐらいでしょう。歩く速度と鎖場の渋滞などで、時間は前後します。
剱岳登山のコース難易度
剱岳は、一般登山道として最上級クラスの難易度です。整備されている2つのルートでも、岩場、鎖場、ハシゴがあって、長時間の集中力が必要となります。
一歩一歩、確実に踏み跡をたどりながら岩場での足場を確保すれば、割とスムーズに登ることができます。ですが、登山経験がまだ浅い人であれば、ガイドをつけるか、登山経験者と同行してもらうと安心です。
また、登山中に急な天候の変化が生じた場合は、早めの下山が必要です。雨が降ったり強風が吹くと、足場も悪くなり、鎖場で滑ってしまう恐れもあり非常に危険です。頂上までまだたどり着いてないときには、名残惜しさもありますが、山の天気は十分に気をつけて、悪天候の場合は早めの判断で下山しましょう。
剱岳の登山口までのアクセス・トイレ情報
剱岳の登山口は、室堂ターミナル。室堂ターミナルのある室堂平へいくには、長野県側からは扇沢駅、富山県側からは富山地方電鉄の立山駅が起点となります。
マイカーの場合は、扇沢駅、富山駅or立山駅での駐車となりますが土日やハイシーズンの時は混雑が予想されますので、時間や日程に余裕をもったスケジュールが必要です。
室堂ターミナルまでのアクセス
【長野県側から/関東・信州方面から】
扇沢駅からトロリーバス→ケーブルカー→ロープウェイ→トロリーバスの乗り継いでいきます。
扇沢駅~室堂 往復:8,800円(片道:5,700円)
STEP1.扇沢駅から黒部ダムへ(関西電力トロリーバス)
扇沢駅からトロリーバスに乗ります。所要時間16分ほど
STEP2.黒部ダムから黒部湖へ(徒歩)
黒部ダムを通ってケーブルカーの黒部湖へ。徒歩15分
STEP3.黒部湖から黒部平へ(黒部ケーブルカー)
黒部湖から黒部ケーブルカーに乗ります。所要時間5分ほど
STEP4.黒部平から大観峰へ(立山ロープウェイ)
黒部平から立山ロープウェイに乗ります。所要時間7分ほど
5.大観峰から室堂へ(立山トンネルトロリーバス)
大観峰からトロリーバスに乗ります。所要時間10分ほど
【富山県側から/中部・関西方面から】
・富山駅から立山室堂直行バス(富山地方電鉄)で室堂ターミナルへ。
富山駅前バスターミナルから高速バスへ乗り、乗り換えなしで室堂ターミナルへ向かいます。事前予約可能。
当日は予約便発車時刻の15分前に富山地鉄乗車券センターで乗車券を購入し、バスターミナルの2番のりばからの乗車です。(片道3400円 往復6000円)
登山シーズンのみの季節運行なので、運行期間と時間は要チェックです。所要時間は2時間30分。
富山地方鉄道株式会社HP
・富山駅から美女平を経由して室堂ターミナルへ。
富山駅から電車、ケーブルカー、高原バスを乗り継いでいきます。
STEP1.富山駅〜立山駅(電鉄富山駅)所要時間1時間ほど
JR富山駅のとなりにある、電鉄富山駅から富山地方鉄道の立山線に乗車。終点の立山駅で下車。(片道1200円)
STEP2.立山駅〜美女平(ケーブルカー)所要時間7分ほど
立山駅~室堂 往復:4,190円(片道:2,360円)
立山駅からケーブルカーに乗車。美女平で下車。
STEP3.美女平〜室堂(立山高原バス)所要時間50分ほど
美女平から立山高原バスに乗車。室堂で下車。
トイレ情報
室堂からは、雷鳥沢キャンプ場、剱御前小屋にトイレがあります。(有料)
また、剱岳アタックの際は、下山時のカニのよこばいのあとの垂直はしごの下に廃墟のようなトイレ小屋はありますが、トイレの施設ではありません。ので、剣山荘で用を済ませておくことが必要です。
剱岳 別山尾根ルートを解説
室堂→剱御前小屋→別山乗越→剣沢小屋(宿泊)
室堂からスタートです。観光客と登山客が賑わう室堂ターミナルから雷鳥沢のキャンプ場を越えていきます。
ミクリガ池や目の前にそびえ立つ立山連峰など、ここは日本!?と思うほどの絵葉書のような絶景を楽しみながらの道が続きます。剱御前小屋前は広場となっていてトイレもあるので、ここで休憩。
ここから別山乗越へは急登が続きます。重い荷物を担ぎながらなので、ちょっとしんどいですが、しばらくいくと眼前に剱岳が現れ、テンションが上がります。
そのまま剱沢の幕営地に下りて通り抜けると、剣沢小屋に到着。1日目はここで宿泊です。
剣沢小屋では別山尾根ルート登山時の注意点などを小屋のご主人が説明してくれます。シャワー(シャンプー、ボディーソーブ使用不可)も浴びて、美味しいご飯を食べて、剱岳の眺めをおつまみにビールを飲んだり…、明日のアタックにゆっくり備えます。
剱岳アタック(上り)剣沢小屋→一服剱→前剱
朝一で剣沢小屋からアタックスタート。ハイシーズンでは、スタートが遅れると鎖場などで渋滞の可能性大。なるべく早めのスタートがオススメです。
まずは、剱岳の麓にある、剣山荘を目指します。剣山荘の裏からが登山道となっています。
「一服剣」までは30分程度ですぐに到着。
正面にそびえ立つ前剣を目指し、そこから一度武蔵のコルへ下ります。
その後はゴロゴロとした石の道から、長いガレ場、ハードな鎖場や岩場が続きます。
浮石も多いので集中して歩きましょう。
アタック開始から2時間弱くらいで「前剣」のピークに到着。前剣からの景色を楽しみつつ、行動食で小腹を満たして、しばし休憩です。
剱岳アタック(上り)カニのタテバイ→剱岳山頂
前剣からは、急峻な鎖場が次々と登場します。鎖場&ボルトの足場の「平蔵の頭」を登り「平蔵のコル」を過ぎると、登り最大の難所、9番目鎖場の「カニのたてばい」です。
「カニのたてばい」9番目鎖場の注意点
鎖がありますが、鎖に全体重をかけずに鎖に頼りすぎないようにしましょう。
ここで重要なのが、3点確保(3点支持)です。人間位は手が2本、足が2本の4肢があります。
そのうちの3肢で体を支えたまま、次の手がかり、足場を残りの1肢で移動するをという動作が3点確保といいます。
登山の基本ですので、意識的に覚えておくようにしましょう。
特に、足場が不安定の場合、非常に危険ですので足場の安定を確認してから次の動作へいくように。登山者が多いので、先に登る人がどこを足場にホールドにしているかを見ておけば大丈夫です。見た目は垂直の壁のようで緊張しますが、足場もちゃんとありますので、想像よりも楽しみながら登れます。
「カニのたてばい」を後に、最後のガレ場を進むと、山頂の祠が見え、山頂に到着です。天気がよく霧がなければ、富士山、八ヶ岳、南アルプスまで見える眺望です。
剱岳アタック(下り)カニのヨコバイ→前剱
山頂の眺めをゆっくりと堪能したら、下山です。登ってきたガレ場を慎重に下りながら、下山の最重要スポット「カニのヨコバイ」を目指します。
「カニのよこばい」9番目鎖場の注意点
「カニのたてばい」同様、こちらも鎖がありますが、鎖に全体重をかけずに、あくまでもバランスをとるだけにしましょう。
基本、「カニのよこばい」では、足場を一歩一歩確保しながら、足で登ることを意識してください。足場を確保したら体重はつま先にかけて、次の動作に移りましょう。
「カニのよこばい」は、最初の一歩が見えなくて怖い!とよく言われています。特に体が小さな女性は、足場確保に苦労しますが、前の人がどこを足場にしているかを見ていれば大丈夫です。
「カニのヨコバイ」を過ぎると垂直のハシゴを下ります。ハシゴの下にトイレが。トイレというより、廃墟のような建物ですので、携帯トイレを使うときのシェルターといった感じでしょうか。
剱岳アタック(下り) 前剱一服剱→剣山荘(宿泊)
ガレ場が多い前剣と一服剣の区間と、最後の剣山荘までの区間は、下山時に滑落などの事故が多い区間なので、注意が必要です。下山の難所をクリアして、長時間の登山で体力も消耗し、緊張と集中が切れてしまうからだと言われています。最後まで、気を引き締めて下山しましょう。
下山をしたら、剣山荘でご褒美のビールとカップラーメンで至福のひとときが過ごせます。他の登山者と、達成感を分かち合いながら談笑をするのも楽しいですよ。
剱岳アタック後、その日に帰宅の方は剣山荘で一息ついたら、そのまま室堂へ向かいます。今回は、剣山荘で一泊。小屋ではシャワーも浴びれますので、疲れた体をゆっくり休ませて、明日の帰路に備えます。
剣山荘→別山乗越→剱御前小屋→室堂
下山の最終日です。いく時とまた違った剱岳の姿を見ながら、気持ちの余裕もある下山もいいものです。別山乗越までは、チングルマやハアクサンフウロ、ミヤマキンバイなどの高山植物が咲き誇り、目にもやさしい下山道です。
剱御前小屋で休憩をとって、黙々と下山をしていくと、雷鳥沢のキャンプ場の色とりどりのテントが見えてきて、あとちょっと!と嬉しくなります。
このまま楽しく室堂までいくといいのですが、雷鳥平から室堂までの登りの階段が最高にハード。剱岳を経験した登山者の中では、剱岳よりも立山縦走も、一番きつい室堂の、万里の長城といわれているとか。
楽しく笑顔で下りの階段を歩く観光客をすれ違いながら、最後の頑張りが必要ですので、最後まで気を抜かずに頑張りましょう!
剱岳周辺のおすすめの温泉
登山の後の楽しみといえば、やっぱり温泉ですね。
剱岳後の温泉といえば、室堂のミクリガ池のそばにある温泉宿「みくりが池温泉」!日本最高所にある温泉として有名で、地獄谷から引いたお湯の掛け流しの湯は格別です。
また、みくりが池温泉はお食事が美味しいとの評判も。予約をすれば宿泊もできるので、ここで一泊して温泉をゆっくり楽しんで帰るのもいいですよ。
ミクリガ池温泉HP
日帰り入浴:9:00~16:00 大人700円・小人500円