神奈川の登山を代表する山域である丹沢。その丹沢において最も登山者が多いのが、南面に位置する表丹沢です。
今回はその表丹沢を代表する塔ノ岳の超人気ルート、歩き応えのある表尾根縦走ルートをご紹介します。
コース所要時間
ヤビツ峠ー三ノ塔 通常:1時間25分
三ノ塔ー烏尾山 通常:30分
烏尾山ー行者ヶ岳 通常:25分
行者ヶ岳ー新大日 通常:40分
新大日ー塔ノ岳 通常:40分
塔ノ岳ー花立山荘 通常:30分
花立山荘ー堀山の家 通常:35分
堀山の家ー大倉 通常:1時間15分
無理をせずにエスケープルートへ
スタミナが持たない、体調不良、怪我などによって途中下山を余儀なくされる場合があります。
その場合は、本ルートとは別の登山道を利用して下山します。
(戸沢へと降りれる分岐点、政次郎ノ頭)
表尾根には各ピーク付近にエスケープルートがあります。大倉に続く戸沢へのルート、東側へ降りてヤビツ峠方面に向かえる札掛けルート、三ノ塔付近であれば下山口の大倉まで一本で降りられる三ノ塔尾根があります。
山は標高が上がればその分危険度も上がります。登頂の可否を判断し、歩行による下山が可能であれば、こうしたエスケープルートを利用して下山しましょう。
塔ノ岳登山の装備
登山口までのアクセス方法
ヤビツ峠までは小田急線秦野駅から神奈中バスのヤビツ峠行きに乗ります。
(秦野駅北口のバスロータリー)
バスの本数は非常に少なく、登山に適した時間は8時台の1本になります。
繁忙期で乗り切らない時は臨時の直通便が出ますが、時間に余裕を持って30分程前に
来れば繁忙期を除けば乗車できるでしょう。
この他、早出でバスが無い場合は、蓑毛行きのバスで終点まで乗車し、蓑毛登山口からヤビツ峠まで登山道を使って向かうことができます。
水場とトイレ情報
(三ノ塔に新設されたトイレ。冬期は使用不可)
水場は塔ノ岳山頂直下、下り15分程のところに水場があります。水枯れの可能性もあるので、事前情報を入手しておきましょう。
トイレはバス停前のヤビツ峠トイレ、登山口付近、三ノ塔、烏尾山、木ノ又小屋、塔ノ岳、花立山荘、駒止茶屋、見晴茶屋、観音茶屋、大倉バス停前にそれぞれあります。
冬期使用不可能のトイレや通年営業はしていない小屋もあるので、手洗いには余裕を持って行動しましょう。
塔ノ岳の表尾根縦走ルートを解説
ヤビツ峠ー三ノ塔1時間25分
ヤビツ峠を出発すると、しばらく舗装路を歩きます。
冬の時期は風が強く、朝方は低い気温にさらに風の影響で体感温度が氷点下。歩き出しは体も冷えているので、辛抱の時間帯です。
この日は雲一つない快晴。これからの眺望に期待して歩を進めます。
標高を下げていくと、登山道へと向かう分岐を左に入り、間もなく登山口に到着します。
(登山道への分岐。左は登山口へ。直進は札掛け方面へ)
(登山口)
登山道は標高を一気に上げる急勾配を登り、一旦林道を横切っていきます。
(途中の林道)
林道に到着する頃には体も温まっているので、保温と透湿性のバランスを考慮してウェアを脱いでも良いでしょう。
林道以降、なおも登りは続きます。
初めのチェックポイントである二ノ塔に近づくと、樹林帯から一旦抜け、後方には丹沢東端の代表格、大山がその美しい山体を見せてくれます。
(信仰心が芽生えるの理解できる綺麗な山容)
視界が開け、再び樹林帯に入り、間もなく二ノ塔に到着します。
(二ノ塔。三ノ塔方面と、菩提へ降りれる二ノ塔尾根方面へ分かれる)
二ノ塔からの眺望は限られており、ここから10分前後で向かえる三ノ塔の眺望が良いので、軽く息を整えて三ノ塔を目指しましょう。
三ノ塔へは一旦尾根を下り、急な階段を上り返します。
左手には秦野市街の街並みや、富士山がひょっこりと顔を出してくれています。
- 初心者向けポイント
この辺りは風が吹き上げる通り道であり、道が崩れた痩せ尾根の部分もあります。
転滑落には十分注意しましょう。
三ノ塔に到着すると、いよいよこれから歩く表尾根の全容と、丹沢随一の眺望を望むことができます。
(眼前が丹沢表尾根。奥に富士山が望める)
左手には下山で使う大倉尾根が目視でき、表丹沢の雄姿と富士山のコラボレーションは、ここでしか見られない特別なものです。
縦走は登山者にとって憧れの山行スタイルであり、日帰りでこれほど眺望が楽しめるのが丹沢の魅力の一つです。
三ノ塔にあった避難小屋は現在改めて建設中です。頂上のシンボルであり、遠くから視認できる小屋だったので、また三ノ塔らしさが戻るのが楽しみです。
三ノ塔ー烏尾山30分
三ノ塔での壮大な景色を堪能した後は、いよいよ表尾根の核心に突入します。
次の峰である烏尾山までは一旦尾根を下ります。
(急な下りが始まる。左に見えるのが烏尾山)
ここの下りは随所に滑りやすい場所が多く、また踏み外すと急峻なガレ場を転げ落ちることになるので、足元に注意し、急がず自身のペースで下っていきましょう。
振り返るとこれまでいた三ノ塔が手の届かない頂の様な場所にあります。
登山の面白い所は、普段感じない高低差や、その道を自分が歩いたんだという充実感にある点で、先程見た景色を踏破する想像をすると心拍数が上がります。
降りきると短い登り返しがあり、間もなく烏尾山に到着します。
烏尾山はシンボルである烏尾山荘と常設のトイレ、ベンチが設置されています。
ここで呼吸を落ち着かせ、次の行者が岳を目指します。
烏尾山ー行者ヶ岳25分
行者ヶ岳へは平坦な登山道を経て、直下で急勾配を登ります。
(途中の平坦道)
(行者ヶ岳直下)
表尾根は初級者としては距離が長く、またアップダウンがあるため脚への負担もあるので、ここに来ると少し足の疲労を感じるようになります。各ポイントの通過予定時間を確認し、まだ余裕があるようであればペースを緩めても良いでしょう。
冬の場合は風も強く、足を止めると体温の低下を招きパフォーマンスが落ちていき、遭難の可能性も出てくるため、あくまで歩き続ける事をオススメします。
急勾配の上りでは鎖が付いていますが、使わなくても通過は可能です。
サポート程度に使用しましょう。
(山頂直下にある鎖)
行者が岳山頂は狭いながらもその峻険な佇まいが私は好きです。
(行者ヶ岳から見る三ノ塔)
バリエーションルートとなりますが、尾根を使って札掛け方面に降りることができます。
行者ヶ岳ー新大日40分
行者ヶ岳を過ぎると、表尾根でも注目度の高いセクションに差し掛かります。
平坦な道を進み、尾根は下りになります。見晴らしも良く、このあたりから塔ノ岳への距離感が近く感じるようになります。
(奥に見える塔ノ岳)
下ると高低差のある鎖場があります。
(表尾根のハイライトである行者ヶ岳ー新大日間の鎖場)
こうした鎖場がもう一か所あり、鎖だけに頼らず、足元を確認し慎重に下降します。
(2つ目の鎖場)
- 初心者向けポイント
鎖を使う際、基本的には素手かグリップ力の高いグローブを使用しましょう。冬の登山の場合はグローブをしていることが多いと思いますが、鎖を握って滑る場合には、一時でも我慢して素手で下降しましょう。
私は厳冬期や気温の低いシチュエーションを除き、普段はある程度グリップ力があるグローブを常に使用しており、こうした場面に対応しています。グローブにしっかりしたグリップ力がある場合には、防寒や怪我の観点から個人的にはグローブを付けることをオススメします。
一か所目を通過したら間もなく2か所目の鎖場あり、こちらの方が下降の難易度が高いので注意しましょう。
- 初心者向けポイント
もし複数で通過する場合は、必ず先行者が下降を完了するまで待機しましょう。落石や滑落時の2次被害を防止するために必要なので、焦らずに待ちましょう。
鎖場を通過したらしばらく登りが続き、見晴らしの良い書策小屋跡地に到着します。
(鎖場以降の登山道)
ここまで来ると塔ノ岳はより間近に迫り、登頂への高揚感がより高まってきます。
(塔ノ岳までもう少し)
ここで小休憩を入れるか、この先の新大日で塔ノ岳までの最後の足休めをしておきましょう。
(書策小屋跡地)
書策小屋跡地から新大日までは10分前後の上りで到着します。
(新大日。以前は営業していたであろう小屋跡)
新大日を振り返ると、これまで歩いた表尾根を視認できます。
冬場は空気も澄んで見通しが効く日が多いので、この景色を存分に堪能するのに適した季節です。寒さに耐えながら歩いた登山者へのご褒美のようです。
この新大日を越えると、登頂までの最後の稜線に差し掛かります。
新大日ー塔ノ岳40分
登山道は小さなアップダウンを繰り返していきます。
(疲労が溜まっているので、足を挫かないように)
(木ノ又小屋)
北側斜面や登山道のところどころに雪が付いていますが、アイゼンが必要な状態ではありません。
※この数日後(2019年1月31日)に降雪があり、塔ノ岳山頂で10㎝の降雪がありました。
現在は状況も変わっていますので、軽アイゼンが必須です。
稜線の南面はこれまで見た表尾根の他、眼下にある秦野市の街並みを始めとした西湘地域の景色を望むことができます。
- 初心者向けポイント
冬山の見えない注意点として、水分摂取があげられます。夏山と違い、喉の乾きを感じにくく、気づいたときには水分不足とそれに伴う塩分の不足などで、脚が攣ったり意識が朦朧としたりと、症状として表出します。
この付近となると疲労も大分蓄積されるので、水分を細めに補給しておきましょう。
木ノ又小屋を越え、歩き続けると塔ノ岳のシンボルである尊仏山荘が眼下に見えてきます。
この最後の上りを終えれば、念願の塔ノ岳山頂です。
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(表尾根方面)
(西側には富士山と西丹沢)
(奥には蛭ヶ岳を始めとした丹沢の核心部)
塔ノ岳山頂は箱根、西丹沢、遠方にある富士山や南アルプスなど、自然豊かな西側と、厚木、横浜など平野部にある東側の都市群、南面は相模湾、北側は丹沢山、蛭ヶ岳などの丹沢の核心部を視認できます。
この景色は中毒性があり、各方面からのアクセスも豊富なことから、登山者数は丹沢随一です。
ここまで何度も振り返ってきた表尾根が自分の経験値として血肉となった感覚は、登山を始めた方には大きな充実感として残る程でしょう。
頂上の尊仏山荘では飲食物が販売されているので、食糧が不足の場合はここで購入しておくと良いでしょう。休憩も可能です。
(尊仏山荘)
この日は風が和らぐスポットを利用して40分ほど過ごしました。夏の涼しい時は風が通る富士山側で、冬は風を回避できるスポットで表尾根を眺めるのが私の鉄板です。
塔ノ岳ー花立山荘30分
頂上を出発し、一路大倉尾根の花立山荘を目指します。
(大倉方面へ)
大倉尾根は標高差1,200mの急な下りとなるので、表尾根で疲れた足で挫かないよう、余裕を持って歩きましょう。
直下の稜線を下り、金冷しの分岐を大倉尾根方面に向かいます。
途中、開けた場所では鍋割山稜と表尾根方面が視認できます。
さらに下り続けると、花立山荘に到着します。
(花立山荘)
花立山荘ー堀山の家35分
花立山荘直下は長い階段が続きます。
(苦行への入り口)
登りでは名物となっている鞭打ちのスポットとなっており、下りでも膝へのダメージを加速させる嫌らしいポイントです。眺望はここで終わりとなり、ここから先は徐々に樹林帯へと入っていきます。
※樹林帯は眺望こそありませんが、個人的には好きなエリアです。苦手とする風が少ないことが大きく、怪我、体温低下のリスクを下げることができます。また標高が高い山域となれば、安全圏に入ったと認識できる瞬間でもあります。
堀山の家は、下山路の中間点といえる場所にあります。
(樹林帯の中に佇む堀山の家)
ここで足を休め、水分と軽く行動食を摂っておきましょう。
堀山の家ー大倉1時間15分
疲労が蓄積されしんどい中ですが、ここから1時間弱かけて大倉バス停を目指します。
視界はあまりなく終わりの見えない道は、下山を目前にした登山者にとっては悪夢であり、苦行です。初めて大倉尾根を利用する場合は、駒止茶屋、見晴茶屋、観音茶屋を目安として下ると、多少気持ちも和らぎます。
(駒止茶屋)
(見晴茶屋)
(観音茶屋)
各茶屋は肌感覚ですが15分間隔の距離にあり、観音茶屋からさらに15分下れば、登山道は終わり、舗装路を大倉バス停まで10分歩きます。
大倉バス停
大倉バス停は目の前に戸川公園があり、ここには新しく開店したコンビニとイートインコーナーがあります。登山で疲れた体を一旦休め、目の前にバスが来るまで待ちましょう。
バスは小田急線渋沢駅までの1ルートとなります。
まとめ
表尾根は歩き応えがあり、縦走登山の醍醐味、丹沢の魅力をギュッと詰め込んだルートです。一度歩くだけでも楽しいですが、春夏秋冬、1年間で見せる姿はどれも個性に溢れているため、季節ごとに登る事をオススメします。
肌を伝う風の感覚、動植物の違い、山肌の色、どれもその日にしか味わう事の出来ない貴重な体験となる事でしょう。
是非、丹沢の表尾根を歩いてみて下さいね。