御前山は標高1405mで、登りがいのある奥多摩エリアに連なる山々の中でも、多摩川の南側にそびえる大岳山、三頭山とともに「奥多摩三山」に数えられる人気の山です。初心者の方でも日帰りで十分楽しめますが、登り応えのある山でもあります。
山頂は残念ながら眺望を期待できないので、割愛するという山情報記事にはあり得ない展開ですが、どうぞご了承を。
また、帰りに立ち寄りやすい温泉情報もお伝えしますね。
御前山の魅力
実は御前山、他の山と違って人気の理由が山頂の眺望というわけではなく、例えば登る際に見える稜線が美しい、崖のような急登がある、底なしかと見紛うマゾっ気をくすぐる下りルートがあったりするという「え?そこ?」みたいな視点が魅力だったりします。
今回は、そんなちょっとだけマニアックな魅力を満喫できる御前山の登山ルートをいくつか、難易度別でご紹介します。
御前山はカタクリの花の季節がおすすめ
御前山は花の百名山に選ばれており、その中でも有名なのはカタクリの花です。
カタクリの花はユリ科の多年草で、開花の期間はおよそ2週間程度と短いです。
御前山のカタクリ花は、例年だと4月下旬から5月上旬にかけて見頃をむかえます。その季節には花目当ての多くのハイカーがやってきます。
御前山の登山コースの難易度
御前山に登るには、3つのルートが存在します。「栃寄沢ルート」「鋸尾根ルート」「大ブナ尾根ルート」の3つで、この順に難易度がアップしていくといっても良さそうです。とはいえ、どうか誤解しないようにいただきたいのは、実は難易度低めのルートであっても、登り始めの標高はさほど変わらず、御前山自体の難易度は低いわけではありません。
御前山は登山地図を見ればわかるのですが、他の奥多摩三山と異なり、近くにアクセスの良い低山や登山ポイントが存在しません。大岳山には御岳山がありますし、三頭山には檜原都民の森があるので、そこから登れば1500mレベルは、超楽チンなのです。つまり、御前山は上りも下りも、基本的には手を抜けない山だという認識でいるのが良さそうです。
地図を見て「奥多摩都民の森があるじゃん!」と思った方、甘いです。檜原都民の森と違って、勾配が結構キツイんですよ。ということをお伝えした上で、以下3つのルートに関しての基本情報を紹介しますね。
御前山の難易度別登山ルート
御前山へのルートは基本、上りとして紹介します。
初心者におすすめ栃寄沢ルート
難易度低:栃寄沢ルート(登り205分)
一番初心者におすすめなのが御前山を目指す栃寄沢ルート、JR奥多摩駅からバスに乗り奥多摩湖に向かう途中の「境橋」バス停から始まります。登山口までは45分の徒歩で車道を歩いてアプローチとなる一方、マイカー利用の方は、登山口まで車で行けるので、マイカーの人が利用しやすいルートとも言えます。
奥多摩都民の森の表示を過ぎたら、栃寄沢登山口の表示を見落とさないようにして登山道へ。ここで驚かないでいただきたいのは、いきなりそびえ立つ急登です。ねっ、だから言ったでしょ?離脱したい方は、途中で林道チョイスという方法もあります
ここから始まる登りは、基本的にはひたすら同じ角度の傾斜です。トチノキ広場までは70分ほど、斜面登りです。登山道自体が時折見えにくくなっているため、獣道かと不安になるかもしれませんから、コンパスをチェックしながら歩きましょう。
トチノキ広場からは、湿気が強くなり、わさび田があるなど、気持ちの良い空気となります。斜面は急なので、ジグザグに登って、カラマツ広場を目指します。
単調かもしれませんが、季節によっては水っけを含んだ空気の影響で緑が濃く、目が癒されます。100分ほど歩き続け、避難小屋が見えればあと少し。5分ほど段差の大きな階段を登れば、御前山の山頂です。
奥多摩3大急登を登る大ブナ尾根ルート
難易度中:大ブナ尾根ルート(登り185分)
御前山を目指す大ブナ尾根ルートは、JR奥多摩駅からバスに乗り奥多摩湖に向かい「奥多摩湖」バス停から始まります。このバス停は奥多摩湖=小河内ダムの入り口にあります。奥多摩有数の急登を登ろうとする強者がチョイスすることでも知られており、実は人気が非常に高いルートです。バス停周辺にも無料駐車場があります。
バス下車後は奥多摩湖を右手に楽しみつつ、ダムの上を歩き御前山登山口に向かいます。ダム萌え気分も味わいつつ、すぐに登山口へ向かいます。登山口を入るとすぐに展望園地というちょっとした公園があり、そこを抜けると、急登がスタートします。
大ブナ尾根ルートは、他ルートよりもやや勾配がキツイという特徴があります。登山道に時々突然、平坦な道が登場するためで短い距離で高さを稼がなければならないから。しかも、栃寄沢ルートと異なりジグザグはほぼなく、まっすぐ真正面に登っていく道が多いのです。「これ崖だよね?」と時折呆然としてしまう道もあるのが、マゾっ気あるハイカーを痺れさせるのです。
特にキツイのは、ルート名の「大ブナ尾根」エリア。おおよそ60分ほど歩いたあたりから、サス沢山手前から急勾配が始まります。歯を食いしばって登る中、立ち止まって振り返ると奥多摩湖の様子が木々から覗きます。御前山は、他の奥多摩の山に比べて、山の緑の香りが濃いように感じます。ブナの香りでしょうか。急な傾斜もたくさん緑の香りを吸って攻略したいものです。
大ブナ尾根ルートの「オマケ」は、御前山だけでなくもう1山制覇出きる点です。勾配が緩やかになった頃、山名の表示が登場します。惣岳山です。木々に囲まれてはいますが、風通りもよくベンチもあるので、最後のスパート前の休憩にはもってこいかもしれません。
一息入れたら、あとは20分。栃寄沢への分岐を左に見つつ、まっすぐ登り続ければ、御前山に到着です。
上級者向けの鋸尾根ルート
難易度高:鋸尾根ルート(登り245分)
御前山を目指す鋸尾根ルートは、JR奥多摩駅からそのまま徒歩で、登山口を目指します。アクセスは便利ですが、何しろ時間がかかるのがネックです。それもそのはず、他の2ルートよりもスタート地の標高が低い。そのために、距離も時間もかかるというわけです。バス利用が不要なのもあり、割と下りルートに選択する人も多いように思います。
奥多摩駅から40分弱をかけて、まずは愛宕山を目指します。山とついていますが、長い階段がついた、丘のようなもので、山頂に神社があります。とにかくこの階段が長いだけでなく急ということもあって、ウォーミングアップにしてはちと厳しい。ここでへばると、おそらく山頂にはたどり着けなくなるので、ここはペースをキープして登山道を目指します。
「鋸尾根」とは、鋸山に向かう尾根のことで、御前山に向かう途中にあります。しかし、道もその名前の通り、細かなアップダウンがジリジリ続きつつ、傾斜もあるという、標高図を見れば「ああー、ノコギリね」と思うであろう道です。しかも、なぜか大岩の上を乗り越えていかねばならなかったり、ルートにいささかの不安も感じる瞬間もあります。基本は上級者向けとの認識を持って歩くことをオススメします。
120分ほど歩くと、左手に鋸山への分岐が見えてきますが、ルートは御前山へと取ります。ここからいきなり下りが始まります。標高1100mあたりなので、木々が低木となり気持ちよく歩けるようになります。御前山一歩手前とも言える鞘口山までは、比較的快適な歩きが楽しめます。
そしてここからが最後の、まさに「山場」です。一気に300mほどの高さを登らなければなりません。御前山避難小屋まで再び急登を攻めます。この登りは、大ブナ尾根にも匹敵するかもしれません。避難小屋まで登り切れば、あとは御前山まで5分ほどです。
御前山からの下りルートの選び方
下山は、ここまで紹介した3ルートのどれを選ぶか、です。道の感じはなんとなく掴めたところで、下山の場合に各3ルートにどんなメリット・デメリットがあるのかをお伝えしますね。マイカー利用者は基本ピストンになるかもなので、この下りルート情報も加味した上でルート選びをすると良さそうですよ。
推奨度高:栃寄沢ルートは下山に安パイ
御前山の上りルートとしては、急登好きの心をさほどくすぐるとは言えない栃寄沢ルートですが、実は下山の際には最も安全なのでオススメです。御前山は上りに時間がかかった場合には、素直に最短下山ルートを選ばないと、暗くなってからの足場の危険性が格段にアップします。滝もあるので見てみるのもいいかもですね
推奨度中:鋸尾根ルートは体力がある人用
一番のメリットは、奥多摩駅に歩いて戻れるため、遅い時間になればなるほど減るバスの時刻表を気にする必要がないという点です。しかし、上りでも記した通り、距離は長いという不安点はあるので、下山開始時間に余裕のある人にお勧めします。
また、麓に行けば行くほど木々が高い森となっているので、暗くなるのも早いです。愛宕山の階段はヘッドライトを点灯して下りましょう。
推奨度低:大ブナ尾根ルートはオススメできない
奥多摩の急登を語る上では、登っておくのが当たり前と言われるほど有名な大ブナ尾根ですが、下りにまで選ぶ必要はありません。転がり落ちんばかりの勾配は、下りには向いていないと思います。
もちろん、崖上り好きな方であれば是非ともチャレンジしても良さそうですが、登りで十分に体力を消耗しているはずなので、下りはゆったりクールダウンできる他ルートを推奨します。
御前山の登山口へのアクセス情報
公共交通機関でのアクセス
栃寄沢ルート:JR奥多摩駅からバスで「境橋」バス停下車。バスは1時間に2本程度は出ており、駅からの所要時間は15分程度。
大ブナ尾根ルート:JR奥多摩駅からバスで「奥多摩湖」バス停下車。バスは栃寄沢ルートで利用するバスと同様なので、1時間に2本程度は出ており、駅からの所要時間は20分程度。
鋸尾根ルート:JR奥多摩駅から登山口へ。
車でのアクセス/駐車場
基本はナビで奥多摩駅を目指します。鋸尾根ルートはそのまま駅周辺にある有料駐車場を利用することになります。
栃寄沢ルート:奥多摩都民の森内には無料駐車場があります。
大ブナ尾根ルート:奥多摩湖周辺には無料駐車場が点在しています。特に奥多摩湖はバイクや車でのドライブスポットとしても有名なので、駐車場に困ることはあまりありません。
御前山の登山後のおすすめ温泉
もえぎの湯
実は奥多摩エリアは、気軽な立ち寄り湯が少なく、「もえぎの湯」に一極集中気味です。
奥多摩もえぎの湯
比較的新しく、奥多摩駅から徒歩圏内(駐車場もあり)で、ハイシーズンには利用規制が発生するという人気の温泉です。多摩川でのキャンパーも多いため、若者が多い印象です。
梅の湯
やや足を伸ばせば、電車利用の方はJR青梅線河辺駅直結の「梅の湯」は、スーパー銭湯的で利用しやすくお勧めです。
また、御嶽駅周辺は、御岳神社のお膝元ということで宿坊も多く、立ち寄り湯がある旅館もあるようです。事前連絡をしてお湯をいただくのも手ですよ。
まとめ
いかがでしたか?
御前山は、
1. 基本は中級者が登ることをお勧めしたい、曲者の山
2. 選択は3ルート。時間と上りの消耗度を考えて下山ルートはしっかり考える必要がある
3. 森の香りが濃い、山の空気を満喫できる気持ちの良い場所
と、ややマニア向けな書き方もしてしまいましたが、登る価値は間違いなくある山です。奥多摩はいろんな山がありますから、事前準備をしっかりと、そして山歩きの1日を安全に。素敵な登山経験、是非とも満喫してくださいね!