火打ち石はファイヤースターター以上にワイルドで原始的な火起こしの道具。現代においては物好きな人以外はまず手にすることのない火打ち石ですが、これで火起こしができるようになるとキャンプ上級者として周囲からの視線を集めることになるでしょう。
今回は火打ち石とはどのようなものなのかを解説したのち、火打ち石の原理、そして火打ち石の使い方をご説明します。すでにファイヤースターターでの火起こしに慣れている方は火打ち石の使い方を知り、さらにディープな火起こしの世界に挑戦してみましょう。
火打ち石とは
火打ち石は火起こしに使用する石のことであり、日本の歴史上で最初に登場したのは古事記に記された物語のなか。敵地に乗りこんだヤマトタケルノミコトが窮地に立たされた際、火打ち石で火を放ち難を逃れたという一節です。
火打ち石が庶民に広く普及したのは江戸時代の頃。その頃にはかまどや行灯(あんどん)の火を付けるときなどの火起こしに使用していました。火打ち道具も様々なものが生まれ、ものによっては高級品であったりステータスの象徴としての役割をもっていたものもあったそうです。
火起こし以外でも厄除けや縁起かつぎとしても使用
マッチやライターなどが身近にある現代ではほとんど使われることがなくなりましたが、火打ち石の文化は一部にまだ息づいています。それは火打ち石が古来から火起こし以外の使い方、厄除けや縁起かつぎとしても使用していた文化があるからです。
火打石の火花を切り火と言う
このような目的で火打ち石を用いて火花を起こすことを「切り火(きりび)」といい、古くから続く文化を重んじる職業、たとえば大工などの職人や芸者や落語家の世界では、今も切り火をおこなう風習が残っています。キャンプで楽しく使える火打ち石ですが、実はこのようなおもしろいストーリーがあるのです。
火打ち石の原理や仕組み
火打ち石を使用する際には、「火打ち金(火打ち鎌)」とセットで使用します。そしてその2つを素早く打ち付けることで火花が発生する仕組みや原理です。
このとき火打ち石の方から火花が出ていると思っている方も多いでしょうが、それは誤りです。火花は火打ち金の方から発生しています。火打ち石を打ち付けることで火打ち金が削れ、その削れた金属の粉が発火するのです。
火打ち石を上手く使いこなすには、こういった火打ち石で火花が発生する原理を理解しておく必要があります。そうすることでスピーディーに腕前が上達し、火打ち石での火起こしをスマートにおこなえるようになります。
火打ち石で火起こしする時に必要なもの
火打ち石を使用して火起こしをする際に必要なものは、「火打ち石」・「火打ち金」・「火口(ほくち)」の3つです。それぞれについて少し詳しく解説します。
火打ち石
火打ち金に打ち当てて火花を発生させるための石です。火打ち石は焼き入れした金属を削るほどの硬度を持っていなければならないので、なんでもいいわけではありません。
現在では比較的手に入りやすく硬度が高い鉱物、メノウが一般的です。メノウの火打ち石であれば、ネットで安く簡単に手に入るのでおすすめです。
火打ち金(火打ち鎌)
火打ち石をぶつけることで金属の粉末を発生させ、火花を起こすための道具。鋼鉄でできており、指でつまんで使用する小さいものから手のひらでしっかりに握ることができる大きめのものまで、サイズ・形状は様々です。
使いやすさを重視するのであれば、ある程度大きめのものがおすすめです。しっかり握れるので安定して火花を出せるうえに、火打ち石に手をぶつけて怪我をするリスクを抑えることができます。
今回使用した火打ち金は、安価に購入できますが簡単に火花を散らせ火起こしも十分できるので、火打ち石で火起こしに挑戦してみようという方にもおすすめです。
火口(ほくち)
火打ち石と火打ち金で火起こしをする際、薪に直接火花を飛ばしても火はつきません。そのため最初に着火するためのものが必要となります。そのときに使用するのが火口です。最初に火口に火をつけてから、さらに火もちの良い木などに火を移します。
火口は何よりも火がつきやすいことが重要で、綿を炭化させて作られた「チャ―クロス」や、綿のロープを火口用として使いやすい長さにカットした「チャーロープ」が最適です。いずれもきわめて火がつきやすく、数回火花を飛ばすだけで着火できます。
キャンプ用火打ち石で火起こし!使い方の手順を知ろう!
火打ち石で確実に火起こしができるように、使い方をしっかり押さえておきましょう。仮に火打ち石を使用する予定がないとしても、もしもの時にこの知識が役に立つかもしれません。
火打ち石の使い方は以下の8ステップ。
①利き手に火打ち金、もう一方の手に火打ち石を持つ。
②火打ち石の鋭利になっているフチの部分を探す。(このフチの部分が火打ち石を当てる場所)
③フチから3mmほど離した場所に火口を置き、親指で押さえる。
④火打ち金を火打ち石に打ち当てる。(火打ち石のフチを削り取るように当てる)
⑤火口に着火したら息を吹きかけて火を大きくする。
⑥火口を枯れ葉や木くずなどで包み、息を吹きかけて燃え広がるようにする。(広葉樹の落ち葉がなかったので杉の落ち葉を使用)
⑦細い薪や枝に火をうつす。
火が弱まりそうだったら、火吹き棒で空気を送ると火力が増します。
⑧以降は太めの薪を追加して火を維持する。
木や薪は前もって3種類の太さに分けておくと着火に成功しやすく、太さの目安は
- 鉛筆の芯
- 鉛筆
- 小指
この3種類に分けて準備しときましょう。
キャンプ用火打ち石の使い方は以上です。
キャンプ用火打石の使い方のポイント
火打ち石の使い方はファイヤースターターと手順は似ていますが、火花の飛ばし方が違う点に注意しましょう。注意すべきポイントは2つです。
1つ目のポイントは、手順②にあるとおり火打ち石の鋭利になっている部分に火打ち金を当てること。角が取れている部分では、火打ち金を削ることができません。
2つ目のポイントは、火打ち金は火打ち石の斜め方向から「カチン」とぶつけるように当てることです。ファイヤースターターのように「シュッ」と擦っても上手くいきません。
この2つのポイントにさえ気をつければ、火打ち石での火起こしは意外なほど簡単です。一発で火起こしが成功するようになるまで、怪我をしないように気をつけながら練習を繰り返しましょう。
キャンプ用火打ち石の種類や探し方
火打ち石に使用する石としてはメノウが一般的であるとすでにお伝えしました。しかし実のところ火打ち石として使用可能な石はメノウのほかにもいくつかあり、それらは自然の中でも見つけることができます。
これに関しては別の記事で詳しく解説しています。火打ち石の種類と自然の中での探し方を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
火打ち石の火口の作り方
火打ち石での火起こしに必須の火口。その火口にはチャークロスやチャーロープが最適であるとすでに解説しました。市販されているものを購入して使用することもできますが、自作することも可能です。
チャークロスの作り方に関しても別の記事で詳しくご紹介しています。チャークロスを低コストで楽しみながら自作したい方は、ぜひそちらを参考にしてください。
キャンプ用火打石の使い方のまとめ
今回は火打ち石とはどのようなものなのかという解説に始まり、火打ち石の原理、そして火打ち石の使い方をご紹介しました。
ファイヤースターターを使用している方はたくさんいますが、火打ち石で火起こしをしている方はなかなか珍しい存在です。しかし便利なものに頼らないキャンプを楽しみたいのであれば、ファイヤースターターの次に行き着くところは火打ち石です。
周りのキャンパーたちがファイヤースターターというイマドキの便利な道具を使用しているなか、もっと原始的で長い伝統を誇る火打ち石をカチンカチンと打ち鳴らし、よりワイルドなスタイルで焚き火を楽しんでみてはいかがでしょうか?