神奈川県の山域で豊富な沢数を抱える丹沢。
沢登りのメッカとしても知られていますが、一般登山道でも沢を通るルートがあり、夏の時期は清涼を好む登山者に人気がある山もあります。
今回は丹沢の西方、西丹沢に位置し、沢を始めとした変化に富んだ登山ルートを持つ檜岳の周回ルートをご紹介します。
檜岳とは
(表丹沢の名峰、三ノ塔から西丹沢方面を望む)
名称は「ひのきだっか」と呼び、標高1166mです。
丹沢の中でも人気の高い鍋割山から近く、登山口の寄をスタートし、鍋割山からのルートは歩き答えのある縦走ルートとして知られています。
同じく寄をスタートし、中津川、寄沢沿いを経由し登頂、秦野峠を通る周回ルートがあり、賑わう鍋割山の近くにありながら、山深く、ひと気の少ない静かな山です。
歴史ある檜岳周辺
(美しい色で有名なユーシン渓谷。撮影日は12月30日の年末ということもあり水量は少ない)
丹沢の中ではマイナーな山である檜岳は、丹沢の歴史を語る上では欠かせない峰のひとつです。
ユーシンへ向かうルート
ユーシンブルーとして有名なユーシン渓谷。
丹沢の秘境と呼ばれているこの渓谷には、現在玄倉林道が通っています。
林道には幾つものトンネルが通り、高低差は緩やかで歩きやすい道ですが、この道が無ければ未だユーシンは人の寄せ付けない秘境となっていたことでしょう。
檜岳から鍋割山を繋ぐ稜線にある雨山峠はユーシンへ向かう数少ないルートであったと言われています。
雨山峠へ行くにも峻険なルートが続いており、檜岳はユーシンと人里を繋ぐ重要な峰のひとつでした。
玄倉林道が開通して以降、静寂を保つ檜岳周辺。
歴史に想いを馳せながらユーシンを目指すのも良いでしょう。
檜岳の魅力
檜岳は樹林に囲まれた静かな山頂ですが、山頂へ至る稜線は南側の眺望が素晴らしく、陽が入るとつい足を止めてしまいます。
沢沿いルート、縦走、バリエーションルート、沢登りと豊富な登山コースを持ち、丹沢の歴史である人との密接な繋がり、自然本来の静かで大きな存在感を体感できる貴重な一峰です。
登山ルートの特徴
(一見するとどこが登山道なのか分からない不明瞭な道も)
檜岳は比較的登山経験者に親しまれる山です。
登山道までのアクセスもさることながら、ル周回であれば長い林道歩き、なにより道迷いの可能性が高いなど、登山を始めて間もない方には難易度が高いエリアとなっています。
崩れやすい登山道、丹沢特有の急斜面、沢の渡渉、不明瞭な踏み跡など、登山の基本と醍醐味を学べる山です。
水場とトイレ
寄バス停、寄大橋共に近くにトイレがあります。
水は新松田駅前で購入しておくか、マイカーの場合は246号線から寄方面へ向かうT字路にコンビニがあるので、こちらで購入しておくと良いです。
ルート上には山小屋や設置トイレがないので注意しましょう。
コースタイム
参考タイム
寄大橋ー雨山峠:2時間15分
雨山峠ー山頂:1時間15分
山頂ー伊勢沢ノ頭:35分
伊勢沢ノ頭ー林道秦野峠:1時間10分
林道秦野峠ー寄大橋:1時間10分
筆者所要時間
寄大橋ー雨山峠:2時間
雨山峠ー山頂:45分
山頂ー伊勢沢ノ頭:30分
伊勢沢ノ頭ー林道秦野峠:1時間
林道秦野峠ー寄大橋:1時間
基本の登山口とアクセス
(登山口の寄大橋)
檜岳へは神奈川県の松田町に位置する寄(ヤドリキ)からのアクセスが一般的です。
周回ルートの起点としてだけでなく、早出と健脚向きのルートとして鍋割山からシダンゴ山までの贅沢な縦走プランを組むこともできます。
寄へのアクセスは小田急線新松田駅から路線バスで寄バス停下車か、マイカーでの利用が可能です。
鍋割山を通らない計画であれば、寄バス停よりさらに奥へ入った寄大橋前の駐車スペースを使用でき、マイカーで上記条件であればこちらが便利です。
寄バス停から寄大橋までは徒歩で30分ほどかかるので、往復で1時間の短縮ができます。
バイクの利用
(バイクは条件さえ整えば登山で有効な移動手段に)
寄大橋の駐車スペースは、橋の左右にあるゲート2つの目の前に合計10台ほどの駐車が可能です。
が、休日ともなると朝の早い時間に埋まってしまいます。
今回、朝7時に寄大橋に到着した時点で片側の駐車スペースが埋まり、出発時点で両側共にほぼ埋まっていました。
紅葉、お盆などのハイシーズンの駐車は椅子取り合戦であり、登山よりこちらが事前課題となるケースは珍しくありません。
こうした時には、オートバイでのアクセスが便利です。
駐車スペースの少ない空間で駐輪できるので時間に悩まされることはなく、往復の渋滞にはまるリスクも軽減されます。
単独登山の場合は利便性が高く、自動車より総じて燃費も良いので交通費も節約できます。
反面、雨対策やヘルメット、車両本体の盗難対策、登山道具の積載、帰路では身体の衰弱も自動車以上に考慮しなくてはならないという懸念点があります。
登山口までの移動距離、下山後の予定には余裕を持てると、バイクは非常に心強い交通手段になります。
檜岳の登山装備
日帰り可能な山なので、基本的には日帰り用の基本装備で大丈夫です。
沢の渡渉があり足元が少し浸かる場合があり、ぬかるんだ部分を歩くこともあるので、可能であれば泥除けのゲイター、浸水対策で防水力のある登山靴を選ぶと良いでしょう。
防寒対策を万全に
(冬は低山でも寒さに耐えられず、保温力のあるダウンジャケットは欠かせない。)
10月以降、丹沢の寒さは麓と比べて一層厳しくなります。
今回の登山当日の周辺気温は朝7時の時点で10度でした。
麓と最高峰の蛭ヶ岳の気温差は10度近くあり、防寒対策が必須になります。
また休憩時は汗冷えを始めとした体温低下、低体温症を招く恐れから、冬場ではゆっくり歩きながら休みを極力取らないようにするといった予防策をとることもあります。
ウェアはフリースや携行性の高いダウンジャケットを持ち、休憩時に体温低下を防ぐために、保温力のある水筒を持っておくと良いでしょう。
行動食もカロリーが高く体の内側から発熱しやすいものを持っていく事をお勧めします。
装備と持ち物
- ザック(ノースフェイス FP ハイブリッド 30)
- レインウェア上下(モンベル)
- 防寒着(モンベル クラッグジャケット)
- 防寒着(モンベル ライトシェルジャケット)
- 防寒着(モンベル アルパイン ダウンパーカ)
- 予備ウェア(モンベル)
- 地形図
- コンパス(SILVA)
- ヘッドライト(モンベル)
- ワークキャップ(モンベル GORE-TEX ワークキャップ)
- ツェルト(モンベル U.Lツェルト)
- 水筒(モンベル フレックス ウォーターボトル)
- 水筒(モンベル クリアボトル)
- フライパン(ユニフレーム 山フライパン)
- クッカー(スノーピーク ソロセット 焚)
- チタンマグカップ(スノーピーク)
- ケトル(トランギア)
- 箸(モンベル 野箸)
- ナイフ(オピネル)
- ライター
- ファイヤースターター
- アルコールバーナー(トランギア TR-B25)
- 燃料ボトル(トランギア)
- ウッドストーブ(TOAKS ソロBPウッドバーニングストーブ)※アルコールバーナー五徳用
- 食糧
- 調味料
登山レポート
《寄大橋ー雨山峠》
寄大橋前のゲートを越えて登山道へ向かいます。
しばらくは中津川、寄沢沿いを歩きます。
沢床の幅が広く穏やかな清流は見ているだけで心癒され、登山開始の足慣らしとして丁度良い勾配です。
舗装路を過ぎると緩やかな斜度から一変、斜面を登ります。
しばらく進むと沢床に降り、ここから渡渉が連続します。
丹沢も紅葉が進み、所々色づいています。
沢と紅葉の共演は山の風景のひとつとして大変見応えがあり、何度来ても飽きることがありません。
足元を注意して慎重に渡渉する事もさることながら、渡渉した先の登山道も見失わないようにすることが大切です。
一歩間違えると全く違う道に迷い込むことがあり、今回、私も谷間の急斜面を登って登山道に合流するルートに入り込みそうになりました。
※登山道とそうでない場所の見分け方は色々あります。
現在位置を特定しにくく、複雑な地形の場合は経験者でも迷い込むことがありますが、バリエーションルートや登山者の少ないルートを除けば、概ね踏み跡がつけられ、登山道はしっかり踏み固められています。
一般的なピンクテープも目印となります。
枯葉の堆積、野生動物の痕跡(踏み跡や糞、寝屋の跡など)も見逃さず、また崩れやすく非常に急勾配の場合も、既に登山道を外れている可能性があります。
基本的には現在位置とその先の地形を随時確認することが登山道から外れずに歩く事に繋がり、不安な時は踏み跡、ピンクテープ、勾配などの上記要素も確認してみると良いでしょう。
寄沢沿いに渡渉を繰り返しながら歩を進め、幅が狭く崩れそうな道を越えていきます。
足場で組んだ橋を渡る場面もあり、こうした崩れやすい場所はひとりひとり慎重に渡っていきましょう。
渓谷を進み、最後の沢沿いから抜け出すと雨山峠に到着します。
雨山峠は鍋割山方面、ユーシン渓谷方面、檜岳方面、寄沢方面の4方向の分かれており、このエリアを歩くには外せない分岐点の一つです。
檜岳方面へは急斜面の尾根に取り付くことになるので、ここで休憩しておくと良いでしょう。
《雨山峠ー山頂》
雨山峠から檜岳山頂へは、途中の雨山を越えて山頂へ至ります。
尾根は取り付きこそ急勾配ですが、ここを越えれば今回のルート随一の穏やかな稜線ルートが待っています。
急勾配は無理せず一歩ずつ着実に登っていきます。
秋の登山では枯葉の堆積で滑りやすい道となるので、下山のみならず登りの際も注意していきましょう。
急勾配を越えると、そこは静かで気持ちの良い稜線です。
間もなく雨山に到着すると視界も大分開け、丹沢の東方面の山々を始めとした眺望が素晴らしい道が続きます。
標高差はわずかですが上り下りを経て、檜岳山頂へ到着します。
山頂はベンチがひとつ設置されているのみの静かな空間です。
ここでゆっくり休憩を取り、下りに備えましょう。
《山頂ー伊勢沢ノ頭》
山頂以降は稜線の終点である伊勢沢ノ頭へ向かいます。
景色を十分に堪能し、伊勢沢ノ頭へ到着して間もなく、秦野峠への厳しい下降が待っています。
《伊勢沢ノ頭ー林道秦野峠》
林道秦野峠へは、登山道上の秦野峠を通ります。
伊勢沢ノ頭ー秦野峠間は今回の周回ルート
で最も長い急勾配の下りが続きます。
急勾配だけでなく崩れやすい箇所もあるので、大きな岩であっても安定していないこともあるので、急がず慎重に下っていきます。
秦野峠を通過すれば、林道秦野峠まであと少しです。
木の階段を降りると、舗装された林道が続く、林道秦野峠に到着します。
《林道秦野峠ー寄大橋》
林道秦野峠以降は大きな難所なく、1時間弱の林道歩きとなります。
ひたすら歩くだけでこれまでのルートに比べれば退屈な道ですが、疲れた体をゆっくり休ませながら登山口に戻りましょう。
※路線バスを利用した山行計画であれば、林道秦野峠からシダンゴ山へ向かうコースも魅力です。
寄バス停までも寄大橋経由より数十分プラスになりますが、退屈する時間も少ない充実した山行になります。
シダンゴ山は初心者向けで踏み跡も檜岳と比較し明瞭な登山道となっていますので、下山時のルートとして選択するのも良いです。
とはいえ時間と体力を消費するので、シダンゴ山経由の場合は十分な時間と体力を持って利用しましょう。
いかがでしたか。丹沢の歴史と自然の持つ美しさを備えた檜岳に是非登ってみてください。