幾多もの沢が流れる神奈川県の丹沢山塊は、県内沢登りの人気スポットです。
夏の時期、シャワークライミングは最盛期となり、多くの遡行者を迎えます。
今回は、水無川流域に位置する沢、戸沢をご紹介します。
沢登り(シャワークライミング)とは
その名の通り沢を遡行して登る登山方法で、現代の登山は一般的に尾根伝いを登りますが、沢登りは尾根と尾根の間の渓谷を遡り源頭部に達します。
渓の多い日本独自に発展したスタイルであり、一般道と比較し手つかずの自然の原風景が残り、渓谷の美しさは一見の価値があります。(画像は北アルプスの双六谷)
戸沢
丹沢の南面に位置する表丹沢。
その代表格である水無川を本流とする沢のひとつに戸沢があります。
アクセスが良く遡行者が多い表丹沢の沢において、人も少なく静かな沢登りが楽しめます。
丹沢を知る登山者から見ると、林道の先にある登山口「戸沢」を考えますが、今回は登山口である戸沢から、表尾根の烏尾山に突き上げる戸沢を遡行します。
遡行ルート
戸沢には大きく2つのルートがあります。
標高750m地点で沢が二俣となり、右俣ルートと左俣ルートに分かれます。
どちらも難易度は同等です。
今回はより烏尾山に近い右俣を選びました。
今回の遡行時間
戸沢(登山口)ー750m地点二俣:30分
750地点二俣ー表尾根:1時間30分
表尾根ー政次郎ノ頭:30分
政次郎ノ頭ー戸沢:1時間
沢登りの装備
沢登りは一般登山と比較し、特殊な道具が必要です。
主にクライミングで使う道具を使い、ザイル、スリング、カラビナ、ハーケン、ビレイデバイス、ヘルメット、ハーネスなどを用意します。
沢登り専用装備として、水流を歩くための沢靴、沢登り用のハンマーなども必要です。
ウェアはレインウェアを着用したり、速乾性のある化繊ウェアを着ます。
沢靴の種類
沢靴には大きく2種類に分かれ、フェルトのソールを使用したものと、ゴムソールを使用したものがあります。
フェルトは苔やヌメリで滑りやすい場所で真価を発揮し、ゴムソールは苔のない場所や乾いた岩場でのグリップが抜群です。
両者とも一長一短があり、自身の行く沢の状況を事前に調べたうえで選択すると良いでしょう。
私はよくモンベルのサワーシューズを使用し、内部が足袋上に分かれているので、親指の感覚が掴みやすく、登攀、滝を巻く際に安心して登ることができます。
沢登り(シャワークライミング)の持ち物
- ザック(モンベル ディナリパック 25)
- レインウェア上下(モンベル)
- 防寒着(モンベル ライトシェルジャケット)
- 予備ウェア(ソックス 化繊のTシャツ)
- ヘッドライト(モンベル)
- 地図 (昭文社)
- ザイル(ダブルロープ30m)
- 補修、アンカー用ロープ
- スリング×5
- ビレイデバイス(エイト環)
- カラビナ×5
- クイックドロー×2
- ハンマー(MIZO)
- チェーンアイゼン
- コンパス(SILVA)
- ツェルト(モンベル U.Lツェルト)
- 水筒(モンベル クリアボトル)
- 水筒(モンベル フレックス ウォーターボトル)
- ケトル(トランギア)
- フライパン(ユニフレーム 山フライパン)
- まな板
- チタンマグカップ(スノーピーク)
- スプーンフォーク(スノーピーク)
- アルコールバーナー(トランギア TR-B25)
- 燃料ボトル
- ネイチャーストーブ(TOAKS ウッドバーニングストーブ)
※ソロの焚火、アルコールバーナーの五徳として使用
- ナイフ(オピネル)
- ファイヤースターター
- 調味料(油、塩胡椒)
単独遡行と装備
沢登りは登攀要素を含み、滝を始めとした岩場のクライミング、水流のある場所を渡渉する場合の確保など、一瞬の失敗で死に至る場面が頻繁に出てきます。
また一度遭難すると、登山道ではない道なき道を行く沢登りでは誰かに発見されることもできないため、死に直結します。
そのため、沢登りでは2名以上のパーティ、ヘルメット、ハーネスの装備が必須と言えます。
初めて沢登りに行くときは、必ず経験のある方に同行してもらいましょう。
※今回は単独でハーネスなどの装備を省力化し、スリング、カラビナなどを使用した簡易ハーネスで遡行しています。
この方法は正しい方法ではなく、基本は上記を守ることが必要です。
遡行を続けて実力をつけ、遡行難易度と道具の特性を考慮した上で行いましょう。
アクセス
戸沢出会駐車場
駐車台数 30台
駐車料金 無料
トイレ 有
ダート路 有
沢登り(シャワークライミング)レポート
戸沢ー二俣
登山口までは戸川公園横の林道を通ります。
マイカーで行けますが、一般道路と違い荒れているので、注意して走行しましょう。
10時前に登山口着、小雨が降っていますが、昼頃には好天になるとの予報を信じ、入渓点に向かいます。
政次郎ノ頭に向かう尾根への分岐点があり、これを標識の通り尾根方面に向かい間もなく見える沢が戸沢です。
ここで登山道と別れ堰堤を2つ超えるまでは左岸(上流から見て左側)を歩きます。
堰堤を超えたところで入渓します。
ここからは水流沿いを遡行し、750m地点を目指します。
戸沢は深い所で膝程の水深で、二俣までは歩きやすい渓相が続きます。
夏の時期の丹沢は日によっては蒸し暑く歩くのが辛いですが、沢登りは冷たい水と涼しい風が通り、気持ちの良い登山が楽しめます。
ヒル対策
丹沢にはヤマビルが生息しており、湿った木々や地面を好み、水流から外れるといつの間にか足元にまとわりついているので、無理なく歩けるのであれば水流を歩くと良いでしょう。
また水流の方が木々やぐずついた泥斜面を歩かず体力を消費せずに済むのも利点です。
水流沿いを歩くと、30分ほどで二俣に到着します。
二俣ー表尾根
向かって右側の水流が右俣です。
ここから平凡な渓相から落差のある滝が出てきます。
初めに8m程の滝が見え、ここは単独では危険なので、滝の左岸から巻きます。
※巻きとは、滝が登攀できない場合、また登攀しない場合に迂回して登る方法です。
沢登りでは良く使われる手段で、滝を登らない分安全かと思いきや、踏み込めば崩れるガレ場やグズついた斜面を登ることが多く危険が伴います。
水流より高いところまで巻くことも多く、沢に戻る際にはザイルを使って懸垂下降することもあります。
本来は滝のすぐ脇を登ればあっという間に巻けるのですが、戸沢右俣は2回目で、今回はガレ場を直登。
非常に辛く、選んだのを後悔するほどでしたが、最上部まで上がると残置ロープがあり、それを伝って沢に戻れました。
8m滝を越えると、間もなくCS滝が現れます。
CS(チョックストーン)とは、岩が滝に挟まっている状態で、沢登りではよく見られる面白い滝です。
CSの下を登ることができますが、滝に濡れるのを敬遠し、左岸から巻きました。
この巻きでは、チェーンアイゼンを使用しています。
※チェーンアイゼンは、本来残雪期の凍った登山道などを歩くときに使われる道具ですが、沢登りではグリップが効かない斜面を登る際に重宝され、これを使うと地面に吸い付くようなグリップが得られ、巻き上りが非常に楽になります。
CS滝を越えて遡行を続けると、再び二俣です。
ここで道を間違えてしまい。本来烏尾山に向かうには右俣を選ぶのですが、以前の記憶を遡ってしまい、左俣だった気がする、と安易に選択してしまいました。
右俣を行くとガレ場を登り尾根に逸れて烏尾山に至りますが、左俣はしんどい藪漕ぎを経て、烏尾山と行者ヶ岳の間の稜線に出ます。
このことに気づいたのは左俣の源頭部を超えたあたり。
見晴らしの良い場所で地形図を広げ、位置を確認。表尾根に向かいました。
表尾根直下の藪までは木々を頼りにトラバースしながら標高を上げます。
藪漕ぎ手前で青空が見え、沢登りの終了と快適な登山道が待っていることを告げていました。
※藪漕ぎは、源頭部を越えて稜線に上がる手前に出てくる木々に隅々まで覆われた箇所を通る方法です。(画像は藪の中から登山道を望む)
体をねじ込むように木々に入れて歩行するため、棘で傷ついたり、ペースも木々の影響で一気に下がるため、沢登り以上にしんどく、最後の難関と言える場所です。
藪漕ぎを終えて、無事に登山道に合流しました。
沢登りは緊張の連続ですが、ある程度安全が約束された登山道に合流した安堵感は筆舌に尽くしがたいものがあります。
ここで一息つき、行者ヶ岳を超えて政次郎ノ頭を目指します。
この日の表尾根の稜線は風が強く、時折見える山々は、雲の幻想さも相まって、美しい姿を撮らせてくれました。
行者ヶ岳を越えアップダウンを繰り返すと、政次郎ノ頭に到着します。
ここから表尾根を外れて戸沢に向けて登山道を下降します。足元に注意して1時間ほど下降すると登山口に戻ります。